飲み会の費用負担における自衛隊と弁護士の違い

自衛隊でも飲み会はありますし、弁護士同士でも飲み会はあります。飲んで語って親睦を深めるという趣旨はどちらも共通ですが、費用負担のあり方について両者で違いがあります。

陸海空の3自衛隊は別組織でありそれぞれ警察と消防くらいの差がありますが、本稿では便宜上陸上自衛隊のことを単に「自衛隊」とします。私は元陸上自衛官なので陸自の飲み会については知っているものの、海上自衛隊と航空自衛隊の飲み会についてはわかりませんのであらかじめその旨お断りします。

自衛隊は割り勘

自衛隊の飲み会の費用負担は原則として割り勘です。最前線の一般部隊では人事異動や新人歓迎の際に小隊単位の飲み会が開かれます。そこでは下は2等陸士から上は3等陸尉まで9階級程度の上下関係がありますが、全員できっちり割り勘にします。千円単位では終わらず百円単位まで揃えます。1人あたりの負担額は4000円程度です。

弁護士は上が出す

弁護士の飲み会では先輩が多く出すのが原則です。10年以上のキャリアを持つベテラン弁護士は1万円札を1枚出します。場合によっては2枚出します。ベテラン弁護士がお金を出し合うことで充分な額に達する場合には中堅以下の負担はゼロです。ベテラン弁護士から集めても費用全額に届かない場合には中堅の弁護士が5000円程度を出します。それでも足りない場合には2年目3年目の若手弁護士が3000円程度を出します。弁護士1年目の新人が費用を負担することは滅多にありません。

考察

自衛隊には「営内者」という制度があります。これは独身の若手自衛官が駐屯地に住む制度です。営内者は駐屯地の中にいるのが原則で、外出をする際には許可が必要です。外出を制限する代わりに住居費、食費、水道光熱費についてはほぼ国が負担します。結婚をすると営内者ではなくなり駐屯地外に住むことになりますが、その際に出る住居手当は2万7000円程度です。そうすると営内者は住居費、食費、水道光熱費を3万円以下で賄っているに等しいことになります。営内者制度があるが故に自衛官では若手とベテランとで可処分所得に差はなく、むしろ若手営内者の方が給料全額を使い切っても外出さえしなければ生きていけるため豪快にお金を使うことが可能です。

自衛隊には厳格な階級制度もあります。階級制度があると上下関係が明確になるため飲み会の費用についても上の者の負担が増えるように見えるかもしれませんが、そうではありません。階級制度があるが故に人望に関係なく階級が上であるというただその1点で上官は決定的に偉く、上官が「突っ込め」と命じれば部下は「突っ込んだら死ぬだろ」と思っていても走って飛び込まなければなりません。従わなければ懲役等の刑事罰を伴う罰則もあります(自衛隊法119条以下)。民間企業でも上司の命令は絶対ではあるものの生死にかかわる命令をされることはありませんし、まかり間違って上司が錯乱してそのような命令をした場合には従わなくても部下が責任を問われることはないでしょう。自衛隊では生死にかかわる命令すら可能とする厳格な階級制度が法律で定められているので、飲み会の費用分担で上下関係を確認する必要性がないのです。もっとも費用が割り勘であることは皆が理解しており、自衛隊の飲み会は自由な雰囲気で行われています。飲み会開始当初こそお互いに多少気を遣うものの、アルコールが回るにつれ場はなごみ、皆好き勝手に飲むようになります。上の者の話に興味がなければ聞かなくても構いませんし、同期で固まって盛り上がることもしばしばです。

弁護士は仕事の場では1人1人が平等です。経験年数は関係ありません。監督官庁も存在しません。お金が間に挟まるボス弁とイソ弁の関係は別として、通常は命令とか服従といった上下関係とは縁の遠い世界です。飲み会に参加したくなければ参加しなくても全く問題はありません。そうであるが故に弁護士は、お互いがばらばらになることを防いで求心力を保つため、飲み会の費用負担について経験年数に応じた傾斜をつけるのかもしれません。