新宿区の客引き防止条例が改正されました。今回の改正のポイントは【1】客引き行為を用いた営業の禁止、【2】公表、【3】過料の3点です。本記事ではそれぞれについて解説した後に、弁護士の意見を述べます。
改正のポイント
客引き行為を用いた営業の禁止
改正前の客引き防止条例では、客引き行為を禁止していたものの、客引き行為を行って客となる者を見つけた後の行動については規制していませんでした。
今回の改正により、客引きから紹介を受けて客引き行為を受けた人を客として営業所内に立ち入らせることが禁止されました(8条1項)。
公表
客引き行為の禁止(7条)や客引き行為を用いた営業の禁止(8条1項)に違反すると、指導(10条)、警告(11条)、勧告(12条)が順に行われます。
勧告に従わなかったときには勧告の内容などが公表され(14条)、店舗場所の提供者に公表事項が通知されます(15条)。
過料
勧告後さらに客引き行為の禁止(7条)や客引き行為を用いた営業の禁止(8条1項)に違反すると、5万円以下の過料に処せられます(19条)。
過料の制裁には両罰規定があり、行為者のみならず使用者にも過料が科せられます(20条)。
なお過料は行政上の秩序罰であり刑事罰ではないので、客引き防止条例違反で逮捕されることはありません。ただし、風営法違反や迷惑防止条例違反で逮捕されることはあり得ます。
弁護士の意見
客引き防止条例の改正の枠組みは以上のとおりです。ここからは私の意見を述べます。
客引きとぼったくり
客引き行為を規制する目的はぼったくりの根絶を図るためです。しかし客引き防止条例の目的規定(1条)には「客引き行為等を防止することにより、区民生活の平穏を保持し、安全で安心な地域社会の実現に資する」などといった抽象的なことしか書かれておらず、ぼったくりが本丸であることがわかりづらいです。目的規定において、ぼったくりについて明確に触れるべきでしょう。例えば「客引き行為等を防止することによりぼったくりの根絶を図り、もって繁華街の安全を保持し、魅力的な街づくりに資する」とするのが一案です。
客引き防止条例ではスカウト行為も禁止していますが(2条(1)エオ)、スカウトとぼったくりには直接の関係はありません。スカウト行為に対しては、迷惑防止条例における規制で充分です。総花的な規制を展開しても効果は薄くなります。ぼったくり対策という趣旨をぼやけさせないためにも、スカウト行為の禁止規定は廃止すべきです。
フリーの客引き対策
改正前は客引き行為に着目した規制しかなく、フリーの客引きから客の紹介を受けて対価を支払った場合に「客引き行為の対価ではなく客紹介の対価である」という弁解をする余地がありました。
こうしたフリーの客引きについても規制をしなければ、ぼったくりの根絶を図ることはでいません。
今回の改正により客引き行為を用いた営業が禁止されたので(8条1項)、店舗が紹介手数料を支払ってフリーの客引きから客を紹介してもらうことができなくなりました。
ペナルティーの強化
今回の改正で導入された過料の制裁(19条)については、実効性を期待できません。なぜなら、過料に至るまでに指導(10条)、警告(11条)、勧告(12条)というプロセスを経なければならず、迂遠だからです。また、客引きで獲得した客からぼったくりをすることで1回ごとに数十万円の儲けがあることに比べて、最大5万円の過料は微々たるものであり、威嚇になりません。
一方、公表(14条)と店舗場所提供者への公表事項の通知(15条)については効果を見込めます。不動産の所有者はもめごとが起きたからといって簡単に物件を手離すわけにはいかず、トラブルを嫌います。したがって、客引き防止条例の定めにしたがって公表されたテナントについては、賃貸借契約を解除することが期待できます。テナントは新たな物件を確保するためには労力と資金が必要となるので、解除を避けようとします。公表(14条)と店舗場所提供者への公表事項の通知(15条)は、ぼったくり以外の営業形態への転換を図る動機づけとなるでしょう。
まとめ
新宿区の客引き防止条例が改正され【1】客引き行為を用いた営業の禁止(8条1項)、【2】公表(14条、15条)、【3】過料(19条)の各規定が導入されました。