日弁連の死刑廃止宣言採択に反対する

日本弁護士連合会(日弁連)が、10月に開催される集会で、死刑制度の廃止を目指す宣言を採択しようとしています。日弁連の死刑廃止宣言採択には「死刑制度の可否」と「日弁連による宣言採択の可否」という2つの論点があるので、以下検討します。

死刑制度の可否について

日本人の多数派は死刑制度に賛成です。内閣府の世論調査によると、「死刑もやむを得ない」と考えている人の割合は8割を超えています。死刑を容認する理由として、被害者の被害感情や社会の応報感情が挙げられます。

これに対し、死刑制度に反対するのが世界的な潮流です。公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本によると、法律上または事実上死刑を廃止した国は140ヵ国に及んでおり、死刑執行国の25ヵ国を大きく上回っています。死刑に反対する理由として、加害者の人権への配慮や誤判の場合に回復する手段のないことが挙げられます。

日弁連による宣言採択の可否について

そもそも日弁連が死刑制度の存廃に関する宣言を採択すべきかどうかについても意見が分かれます。

日弁連執行部は宣言採択に賛成です。その理由は、弁護士法1条の重視です。

弁護士法1条
1項 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。
2項 弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。

弁護士法1条を重視すれば、弁護士の集団である日弁連は人権や社会正義に配慮すべきであり、それらと密接に関係する死刑制度の存続または廃止について宣言をすることに問題はないという考え方になります。

これに対し、日弁連が強制加入団体であることに着目した場合、宣言採択反対に傾きます。

弁護士法8条
弁護士となるには、日本弁護士連合会に備えた弁護士名簿に登録されなければならない。

弁護士法45条
1項略
2項 日本弁護士連合会は、弁護士及び弁護士法人の使命及び職務にかんがみ、その品位を保持し、弁護士及び弁護士法人の事務の改善進歩を図るため、弁護士、弁護士法人及び弁護士会の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。
3項略

弁護士は弁護士法8条の定めにしたがい、必ず日弁連に加入しなければなりません。弁護士にとって日弁連は強制加入団体であり、いかなる思想や信条を持っていても弁護士の職務を行うためには日弁連に加入するしかありません。強制加入団体としての性質上、弁護士法45条では思想や信条に関係する用語は使われておらず、日弁連の目的は弁護士の指導や監督と定められています。死刑制度の存廃は、このような指導や監督という枠組みを超えており、日弁連が宣言として採択すべき問題ではないということになります。

私見

私は、死刑制度については廃止すべきと考えます。人間は完璧な存在ではなく、裁判において事実認定を間違える可能性を排除することはできません。事実認定を間違えるのですから、誤判による冤罪発生の危険はゼロにはならず、取り返しのつかない事態を招く刑罰を容認することはできないはずです。

一方、日弁連による宣言採択には反対です。弁護士法1条にあるように、基本的人権の擁護は個々の弁護士の使命であり、文言上直接的には日弁連の目的ではありません。死刑制度反対を表明したいのなら、同じ意見の弁護士が任意に集まって宣言すれば十分です。それを超えて日弁連が組織として宣言をする必要性はありません。死刑制度については賛成派と反対派で意見が大きく割れており現在のところ収束に向かう状況にはなく、強制加入団体が多数決を行いどちらか一方を支持する宣言をすることは、会員の思想信条の自由を侵害するおそれがあります。

結論として、私は日弁連の死刑廃止宣言採択に反対です。